概要
B型肝炎はB型肝炎ウイルスHepatitis B Virus(HBV)が感染することにより起こります。
このHBVは出生時や免疫低下時の感染では、持続感染(キャリア化)となりやすい性質があります。
しかし、免疫系が発達している成人の感染においては、おおかた一過性の感染に終わることがわかっています。
・欧米では免疫が正常な成人においても、感染例の数%はキャリア化しています。
・わが国で成人のキャリア化はゼロと言われていましたが、実際にはウイルスの遺伝子型により慢性化します。
歴史的背景
1971年
HBs抗原キャリアとの性行為によって急性B型肝炎が起こったことから、HBVが性行為によって伝播することが示唆されました。
1970年代半ば
600人を超えるニューヨークの男性同性愛者の大規模調査が行われました。
このうち…
4.6%がHBs抗原キャリア
51.1%はHBs抗体陽性で感染の既往あり
⇒この調査での最大の危険因子がセックスパートナーの数の多さと判明
このことからB型肝炎はSTDとしての位置づけがなされました。
また、HBs抗原キャリアの配偶者において、HBV持続感染、又は、過去のHBV感染を示す血清マーカーの陽性率が、キャリアでない配偶者のそれと比べて有意に高かったことから、異性間性交渉によるHBVの伝播も明らかになってきました。
⇒この調査でも最大の危険因子であったのはセックスパートナーの数の多さ
例えば当時のアリゾナでは、HBV感染の血清マーカーの陽性率が以下のようであったとしている。
過去4ヶ月間に5人以上のセックスパートナーがいた⇒21%
人未満の場合⇒6%
つまり、やればやるだけ感染率が上がるというデータしか出てこないのですが、実際にどれがSTDで、どれが違うかということを正確に把握することは不可能であるように思われます。
ただ、米国疾病コントロールセンター(CDC)の発表では、1994年から1998年までの間に米国で発生した急性B型肝炎の40~50%が異性間性交渉であったと結論づけているものもあります。
我が国の現状
我が国の成人が発症する急性B型肝炎の多くがSTDと考えられているのですが、その実数、感染率は明らかにはされていません。
また、我が国で従来から見られていたのは、遺伝子型BあるいはCのHBVによる感染だったのですが、最近になって、遺伝子型A(特にヨーロッパ型Ae)のHBVの感染が急増してきています。
その他、HIV感染例においてはHBVの重複感染が多くみられ、キャリア化することが多いとされています。
HIV感染者の6.4%がHBVキャリアです。
一般の住民検診では1%がHBVキャリアです。
症状
性行為で感染が成立した場合、2~6週でHBs抗原が陽性になります。
針刺しや輸血による感染はウイルス量が多いので、この期間が短くなります。(数日~数週)
HBs抗原が陽性になってから2~3週すると、血清中のGPT値が上昇し、やがて倦怠感・食欲不振・赤褐色尿・黄疸などの症状が出現してきます。
このような症状が出現すると誰もが医療機関に足を運ぶように思えますが、実際に来院されるのは、約3分の1の症例だと言われています。
また、急性B型肝炎患者の約1%が劇症肝炎となり、肝移植という治療なしでの死亡率は60~70%にもなります。
診断
この疾患の診断は2通りのタイプに分かれます。
■HBVキャリアかどうかを調べる方法⇒B型肝炎(血液)検査
この検査は現在健康に見える人に行う検査です。
HBs抗原を測定し陽性ならHBV(HBsAg)キャリアといえます。
■今起こっている急性肝炎がB型なのかを調べる方法
もちろん急性肝炎の症状が多少なりとも出ている人に行います。
■原則(あくまでも原則です)
・抗原系は、s抗原⇒e抗原⇒(c抗原)の順に出てきます。
・抗体系は、c抗体⇒e抗体⇒s抗体の順に出てきます。
B型肝炎の抗体は中和抗体であるため抗原と抗体が同時に出ません。
つまり、s抗原⇒e抗原⇒(c抗原)と抗原が累積して出現した後、c抗体が出現した段階でc抗原は消失したことになり、さらに、e抗体の出現でe抗原は消失したと考えます。
そして最後にs抗体の出現を以ってして、s抗原消失、つまり感染の終了となります。
注:c抗原に( )がついているのは、普通測定できないからです。