2日後、彼女から、電話があった。
「せんせー。わたし、次の生理が終わるまで、せんせーのとこ、行かなくてもいいんですよね。」
「そうだよ。」
「じゃあ、わたし、その間に、歯医者さんに行ってもいいですか?」
「もちろん。」
歯科での治療内容は何なのか?という多少の疑問は残ったものの、僕は彼女にOKを出した。
さらに3日して、再び、彼女から電話がかかってきた。
「せんせー、何か、変なんです。」
「どんなふうに?」
「カンジダみたいなんです。カスみたいのが、また、出るんです。」
「本当ですか?歯医者さんで、いったいどんな治療したんですか?」
「親知らずを抜いたんですけれども。」
「抗生物質飲んだでしょ?」
「飲みましたけど。。。だって、化膿止めだからといって出されたから。」
抗生剤、特に、構造式中にベータ・ラクタムという化学構造をもつもの(ペニシリン系やセフェム系の抗生剤ですね。)は、本来、膣の中にいるべき、乳酸菌やら、デーデルライン桿菌やらを、どんどん殺してしまう。
結果、その抗生剤に感受性のない細菌が生き残っていくわけであるが、その最たるものが、カンジダなのだ。
「今、すごく痒くなってるでしょ?すぐに来院してください。」
こうなってしまっては、もう仕方がないので、僕は彼女に言った。
彼女が来院し、診察してみると、やはり、カンジダ症は再発していた。
振り出しに戻っていた。
またいつものように、洗浄してから、膣剤を挿入しようとすると、
彼女の子宮口から、うっすらと血液がにじんでいる。
まさに今、月経が始まってしまった。なんてことだ。
月経中の膣炎の治療は、一般的に困難である。というのも、月経血が多量に出ている状態は、局所的な防御力がおちているし、なにしろ、膣剤を挿入しても、あっという間に、溶けるか、効力を発する前に、外に出てきてしまう。
僕はKさんに「今、メンスが始まりましたので、経血量が減ったら、洗浄を再開しますので、またすぐ来院してください。」と言うしかなかった。
「え~。」という彼女の声は、まさに僕に対するブーイングだった。
数日後、月経がほぼ終わり、洗浄のため、再来した彼女の膣および外陰部のコンディションは、かなりの悪化を見せていた。
彼女の表情が、ちょっと怖かった。
もちろん、その日から、ぼくの全身全霊を込めて、治療は、遂行され、状態は、改善したのだが、結果的に、彼女の、あの時「だいじょーぶ。」と、言ってしまった僕への不信感までは、拭い去ることは、できなかった。
以後、彼女は、自身の判断で、外来にやってきて、まさにマイペースで洗浄等をオーダーしている。
「せんせー。今日は何となく悪くなりそうだから、洗浄して。」
「せんせー。ちょっと心配だから、検査と洗浄ね。」
<終わり>