さん♂は「検査希望」ということで再来院していた。

「その後は、どうですか?何か、ありましたか?」僕が尋ねると、
彼は、堰を切ったように話し始めた。

彼の話によれば、2年半前に僕が治療したコンジロームは、その後、
再発してはいないとのこと。
彼は、あの時付き合っていた彼女とは、今はもう、別れていて、
今の彼女と結婚するのだという。しかも、今の彼女は妊娠していて、
現在、妊娠6ヶ月になるのだという。
今回の彼の久々の来院は、今の彼女の妊婦検診でのできごとが
きっかけになっている。
2週間前、彼女は、自分の実家の近くの産婦人科で、毎月1回、
定期的に行っている、妊婦検診に出かけた。
様々な測定を終え、最後に、内診台に上がった時、その産婦人科の
院長先生から、「陰部にコンジロームができてるよ。ご主人にうつされ
たんだな。」とのご指摘を受けてしまった。

早速、彼女は帰宅すると、さんにどういうことなのか、説明を求めた。
この時、彼が本当に、清廉潔白であるならば、「おれは、無実だ。」
と、開き直れるのであるが、彼は、あの2年半前の自分のペニス
にできた、イボ、つまり、尖圭コンジロームのことが頭をよぎり、
しどろもどろになってしまったとのこと。
ただ、彼は、もう再発さえしなければ、大丈夫、という僕の言葉を
信じて、それを確かめるために、再び、僕の外来を訪れたのだ。

彼の希望はこうだ。自分の血液をとって、その血液から、
尖圭コンジロームに感染していないことを、証明してほしい。

彼の要求を聞いた時、これは、尖圭コンジロームの原因である、
HPV(ヒト乳頭腫ウィルス)感染の診断に関わる、重大な問題点
だな。と感じた。

現在このHPVは約100種類存在するが、これらHPVの代表的なもの
を診断する手立てとしてあるのが、PCRやDNAプローブといわれる
遺伝子学的な診断法で、これは、血液を用いての検査ではない。
例えば、女性であれば、膣の中にある細胞を検体として用いれば、
そこには、まさに、Liveな細胞が存在するため、思ったような
診断結果が得られる。あと、例えば、外陰にできたイボそのもの。
これも、ある意味、Liveなので、診断の価値を見出しやすい。
一番やっかいなのが、治療により、見かけ上、コンジロームが、
なくなってしまった後の、男性の、HPVの存在診断だ。
現在、これを行っている医療機関は、ほとんどないだろう。
まれに、学会の報告等で、その方法論が示される場合があるが、
その場合でも、検査結果において、ある程度、偽陰性が出ることは
覚悟しなければならない、というほど、診断的価値の安定性という面
からみると、不確実感は否めない。
ただ、こういった報告の中で、見かけ上治ったように見える患者さん
から、まだ、ウィルスが排出されていた、というものが、ちらほら、
出始めているのも、また事実なのだ。

僕は、以上のようなことを彼に話して、今回の場合、血液検査では、
もちろん診断することはできないし、HPVの存在診断も、あてには
ならないことを理解してもらった。

それにしても、尖圭コンジロームの診断、治療、予後という流れの
中、何かいつも、連続性が途切れているような感じがしていたの
だが、それを、実例をもって、まざまざと見せられた一例であった。

推察するに、彼は、コンジロームの治療、消失後、約2年間、
HPVを排出し続け、彼の最愛の女性の外陰部に、2年半前の
自分と同じ病変を作らせてしまったたのだろう。

2年間も。。。。なんて長い時間なんだ。
必ず、今より優れた、診断、治療、予後の流れを作ってみせる。
僕は、固く、心に誓った。

 <終わり>

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