初診時に、あらかじめTELで「おりものが変なんです。」と言ってきて、その日のうちに、母親に連れられて、当院を受診した。
診察してみると、子宮の入り口部である頚管に、緑色をした分泌物を認め、わずかに子宮体部に圧痛がみられた。
また、頚管より、分泌物のサンプルを採取すると、そこからうっすら出血するといった状態(頚管炎)であった。
淋菌などのSTD感染を強く疑う症例だったので、すぐさま抗生剤による治療を開始した。
1週後、症状は軽快していた。分泌物培養の最終結果も淋菌で間違いなく、投与した抗生剤の感受性にも問題はなかった。他に、クラミジアやHPVなどの感染も認められなかった。
念のため、さらに2週間してから採取した頚管分泌物からは淋菌を見つけ出すことはできなかった。
こんな時、我々医師サイドは、病気を完全制圧した気分になって、治った患者さん以上に高揚することがある。この時も確かそうだった気がする。彼女が再度来院するまでは。。。。
約1ヶ月半後、Hさんがやって来た。来るはずの月経が来ないというのだ。
当然、10代とはいえ、彼がいるし、SEXも日常普通に行っているとのことなので、すぐさま、妊娠を疑っての検査を開始した。尿中のhCGは、陽性を示し、経腟プローブによる超音波検査では、腹腔内に、大量の液体の貯留を認めた。もちろん、子宮内には、肥厚した子宮内膜は見られたものの、胎児のはいった胎嚢を認めなかった。
こういった所見が、妊娠の第7週から9週にかけて得られた場合、子宮外妊娠を第一に考えるのが最も適切といえるだろう。彼女の場合、約2ヶ月前に治した淋病の続発症ともいえる、卵管の輸送障害が引き起こした異所性の着床(子宮外妊娠)と言えるだろう。最終的にはほとんどが手術による治療となるこの疾患は、腹腔内での出血があまりにも大量になると、患者を死に至らしめることもある。
すぐさま高次医療機関に連絡をとって搬送の手続きをとった。
少しでも早ければ、MTX(メソトレキセート)による保存的治療が行えるのだが、この症例ではどうであろうか?それとも、彼女はこの疾患にかかった多くの患者さんと同じように、片方の卵管を失うのであろうか?彼女の年齢を考えれば、胸が苦しくなった。
先日に感じた高揚感とは、全く逆の、寒気にも似た感覚におそわれた。
淋菌の本当の恐ろしさを思い知らされた夕暮れ時であった。