5日前に、成り行きで、行き付けのお店の子とSEXをしてしまい、2日前より、下着に膿が付くようになってきたからだ。
最初のうちは、ちょっと付くだけだったのが、だんだん膿の量が増えてきた。
来院時にはもう、排尿後であっても、尿道口から、まるで鼻水の「あおっぱな」状の膿が、あとからあとから出てくるほどであった。
さらに、本日朝からは、強烈な排尿痛もある。
あまりに痛いので、水分をとるのでさえ、ためらうようになってきたところで、当院に来院となった。
潜伏期の短さ、症状の強烈さ、膿の外観・量から淋病であることは、間違いないと思われたが、淋病治療の際に一番気になるのが、淋菌のプロフィールだ。ここでいうプロフィールとは、この菌がいつどこで誰から誰に感染した、という事の履歴ではなく、ずばり、菌が獲得している薬剤耐性のことである。
最近の淋菌はほぼ100%といっていいほど、ニューキノロン系の抗生剤に対して耐性を獲得している。それなら、その薬剤を使わなければいいじゃないか。と思われる方もおられるだろうが、話はそう単純には済んでくれない。抗生剤の中で淋菌の治療に用いられる薬剤は、前述のニューキノロン系の他、ペニシリン系、セフェム系、ニューマクロライド系、テトラサイクリン系などがあるが、これらが、何一つ使えないような、恐ろしいほどの耐性を持っている淋菌も確かに存在しているのだ。
その反面、実際の臨床の現場で、驚くほど頻回に、ニューキノロンが投与されているという事実がある。これではますます、耐性菌を
生み出してしまうことになるのに。
彼の尿道分泌物中の淋菌は、幸いなことに、テトラサイクリンとマクロライドが使えるタイプのものだった。ただ、手放しで安心はできない。
静菌的に働くこれらの抗生剤を使った場合、再発率が高いのもまた隠しようのない事実なのだ。
私は最後にEさんに言った。
「全部くすりを飲み終わる頃には何も症状はなくなっているはず。でも、少しでも、変な感じがぶり返してきたら、すぐに来院してください。あと、彼女にも医療機関を受診させてください。」
(一発で効いてくれよ。)
私は、診察室を出ていく彼の背中に、強く念を送ってみた。