HIV(エイズ)

はじめに

伸び続けるHIV 誰もが恐れるこの疾患ですが、日本での新規HIV感染者数はいまだ確実に伸び続けています。
ただ、その数字を以ってしても、第一線で検査にあたっているドクターからは、
『本当にリスクのある人間の検査は未だ全例行われてはいない。』
というきびしい意見があります。

時折メディアをにぎわす統計学的ニュースは、我が国のHIV/エイズの実情を正確に反映しているとは言い切れないのです。

HIVの歴史的背景

ここでは、HIV/エイズというものが世に出てから現在までどのような歴史を経てきたかをお話したいと思います。
1981年、当時の米国でもまれな疾患である、カポジ肉腫・カリニ肺炎による若者の死亡が4つのHといわれる人々に多発します。

1. 肛門性交を行う男性同性愛者(MSM):Homosexual
2. 静脈注射薬常用者(IVDU):Heroinの使用
3. ハイチ人:Haiti
4. 血友病患者:Hemophilia
(MSM:men who have sex with men)
(IVDU:intravenus drug users)

そして、この4つのHの人々が、B型肝炎に罹っている人々と類似しているということから、血液由来のウィルスが原因であろうと考えられました。

1983年、HIV(ヒト免疫不全ウィルス)が見い出されます。
この時点で、米国での患者数は2000人でした。

エイズの増加1985年、HIV抗体検査が普及し、医原性の感染経路が開発国において、激減してきます。
特に米国での血友病者の比率は、1%以下となりました。
その結果、HIV/エイズは、肛門性交を行う男性同性愛者(MSM)と静脈注射薬常用者(IVDU)を合計したものが、87.9%を占めることになり、さらに、男女比においては8:2と、男子に多い疾患としての認識が強まってきました。
そして、この傾向は現在の欧米でも変わっていません。
その後、米国のHIV/エイズの患者数は、増加の一途をたどります。

1987年に、5万人
1992年に、25万人
2000年には、とうとう70万人を超えました。

HIVはアフリカ起源であり、ハイチがアフリカと米国の中継地であったことから、ハイチを経由して全米に拡がっていきました。
また、血友病患者の出血に用いる第8因子製剤は、米国において、多数の売血を1つのロットに集めてから、製造され、全世界に供給されました。
これにより、1960年代のB型肝炎と同様に、HIVは、全世界の血友病患者に拡がって行きました。

さらに、男性同性愛者(MSM)と静脈注射薬常用者(IVDU)は、古くから差別の対象であったため、そこからの感染を外部から抑制することは、問題と障害が多く事実上不可能でした。
MSMの感染部位となりえる直腸上皮は、通常の皮膚や、膣、口腔などの上皮(重層扁平上皮といいます)とは異なり、薄い構造(単層円柱上皮)をしているため、MSMの肛門性交は、病原体の伝達効率が高いとされています。
その上、MSMのSEXには、妊娠や金銭といった、性行動に抑制的に働く因子がないために、欧米のMSMには、年間のパートナー数が100人以上などというケースも存在し、このことが更なる感染の拡大を招いていきました。

ただし、1980年代後半から、リスクグループのカウンセリングが行われた結果、米国MSMの直腸淋菌感染者数は10分の1以下に激減しました。
これにより、1995年には、欧米のHIV新規感染者数は、ようやく減少に転じてきました。
また、1995年以後に行われているHAART療法は、感染者の死亡率を激減させてきました。
しかし時間が経つにつれ、本来感染効率の低い膣性交による女子の感染が増加し、異性間のSEX(Heterosexual)が、前の4つのHに加え、5つ目のH、すなわち、5つ目の危険因子となったのです。

伸び続けるHIV HIV/エイズは、前にお話しした通り、8:2と男性に多い疾患です。
ところが、アフリカ、インドなどでは、男女比が1:1となっています。
この理由は、梅毒、淋病など、HIV以外の性感染症の高い罹患率が、男女共に、HIVの伝達率を増加させるためと、説明されています。

HIVの診断

HIVは感染が成立して抗体ができても、ウイルス自体は体内から排除されずに抗体と共存します。
そのため抗体の検出は、すなわち感染を意味します。
HIV感染の診断、あるいは輸血によるHIV感染を未然に防ぐため、従来よりHIV抗体検査が実施されてきました。
しかし、HIVに感染して抗体が検出できるようになるまでには数週間を要し、この感染してから抗体が検出できるようになるまでの期間をウインドウ・ピリオドと呼びます。

通常、抗体よりも先に抗原が検出されるため、感染後少しでもウインドウ・ピリオドを短縮するためには抗原検出は有用な手法となります。
しかし抗原はすぐに検出できなくなるため、単独でスクリーニング検査に用いることはできません。
なので現在では、酵素免疫測定法(ELISA)を用いてHIV-1,2抗体およびHIVp24抗原を同時に検出することによって、HIVスクリーニング検査としています。

もちろんスクリーニング陽性者は、確定診断のために以下のどれかを確認します。
抗体確認検査⇒Western blot法等
HIV抗原(病原)検査⇒HIV-RNA量測定(PCR法)等

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