Dさんもそんな患者さんの一人だった。
自身の膣分泌物が増え、膣口の周りが痛くなってきており、また、痒みもあるらしい。ある方との性行為が発端になったとのこと。
Dさん曰く、これは雑菌性の膣炎だそうだ。根拠としては、彼が性病でないこと。カンジダのようなおりものでないこと。
診察してみると、まったくもって彼女の言うことが正確だということがわかった。確かにカンジダ症のようではないし、また、STDを強く疑う所見もなかった。ただ、私が気になったのは、この状態を適切な言葉で表現すると、一体何ていえばいいのだろう?という事だった。
というのも、分泌物はわずかに黄色ということ以外、問題はなさそうだし、膣壁及び外陰部にもほんの僅かな発赤がみられる程度なのだ。
もちろん、分泌物には悪臭と呼べるほどの臭いもない。
細菌性膣症(BV)なのか?そうでないものか?
私は悩んだ末、両方の可能性があることを彼女に伝えた。
そして、最終診断は膣分泌物培養の結果で決めよう、ということになった。
後日来院した際、初診時に行った膣洗浄と外陰処置により、症状は軽快していたが、問題は診断名だった。
分泌物培養の結果を見て私は再び悩んでしまった。
そこには、BVのメジャーな病原体である腸球菌と、細菌性膣炎の病原体とされる大腸菌が仲良くならんで書かれていたのだ。
「どうりで症状が中途半端なはずだ。」
この2つの菌はどちらが優位になることなく、それぞれの特徴を打ち消しあいながら、彼女の膣内に存在していたのだった。
ただこの場合、病原性が強い菌の方の症状を、主たる診断名としたので、
「Dさんのおっしゃるように大腸菌性の膣炎でしたよ。もう少し通ってくださいね。」
私が言うと、彼女は「やっぱりそうでしたか。思った通りでした。」とのこと。
私が下した微妙な判定を、彼女は最初から予見していたということになるのだろう。
おそれいりました。