トリコモナス症とは?
トリコモナス原虫による感染症は、最もポピュラーなSTDとして、古くから知られているものの一つであります。
その特徴として、地域による感染率の差が大きいこと、また、近年我が国では減少傾向ではあるが、再発を繰り返す難治症例も少なくないこと、などかあります。
再発の経過をみると、・原虫の残存によるもの
・隣接臓器からの自己感染によるもの
・パートナーからの再感染によるものがあります。
つまり、膣トリコモナス症は患者自身の膣ばかりでなく、子宮頸管、下部尿路やパートナーの尿路、前立腺等にも侵入し、ピンポン感染をきたすにもかかわらず、男性に比べ、女性側の症状が強いことも特徴です。
また、本感染症とHIV感染やPIDなどとの関係にも留意することが必要です。
また、本疾患は、感染者の年齢層が、他のSTDと比べて非常に幅広く、中高年者でもしばしば見られるのも特徴です。
これは、無症状パートナーからの感染によるものが多いことを示しています。
さらに、性交経験のない女性や幼児にも感染が見られることから、他の感染経路、すなわち身に付ける下着やタオルなどからの感染や検診台、便器や浴槽を通じての感染などが知られています。
トリコモナス症の症状
男性では尿道炎症状を起こすことがあるが、一般に、無症候のことが多いようです。
しかし、長期間の観察では、無症候であっても、尿道分泌物や、その炎症像が非感染者に比べて、多いと言われています。
尿道への感染だけでは、本病原体は、排尿により洗い流される可能性がありますが、トリコモナス感染を有する男性は、前立腺炎を併発していることが多いとされます。
そういった場合、トリコモナスは、前立腺や精嚢などに、生息しており、この場合は尿道にでてくることで、NGU症状を呈すると考えられています。
女性のトリコモナス感染の臨床像は、男性に比べ、非常に多様であると言えます。
20~50%は無症候性感染者といわれますが、その3分の1は6カ月以内に症候性になると言われ、泡状の悪臭の強いおりもの増加、
外陰・膣の刺激感、強い掻痒感を訴えます。
膣トリコモナス症のおりものは、トリコモナス膣炎によるもので、発症機序については、膣トリコモナスがアレルゲンなる免疫反応説やトリコモナスが膣内の乳酸菌と拮抗して起こるという説があります。
現在では、後者の説のほうが有力であるとされてますが、この場合、膣内細菌の中で、最も優性である乳酸杆菌が産生する乳酸の原料であるグリコーゲンを、トリコモナスが消費してしまうことにより、膣内の清浄度が保てなくなり、その結果、他の細菌により、膣炎が起こると言われています。
つまり、トリコモナス膣炎はトリコモナス原虫単独による病態ではなく、乳酸桿菌の減少に引き続いて起こる、二次性の細菌性膣炎との合併症候といえるのです。
トリコモナス症の診断
男性のNGUでは他の原因のものと区別がつきませんが、一般的に尿道の膿は淋菌のように膿性でなく、また、潜伏期も10日前後と長めです。
新鮮な標本で、運動するトリコモナスを見つければ、容易に診断がつくきますが、原虫を見つけられないこともあるので、トリコモナス専用培地の使用や尿沈渣、他の細菌培養と合わせての診断が用いられます。
女性では、古典的には泡状の悪臭の強い緑黄色のおりものが見られます。
しかし、このような症状は半数程度の症候性婦人で認められるだけで、実際には、膣トリコモナス症の75%で見られる膣の発赤や、90%に認められる、コルポスコープ下でのイチゴ状の子宮腟部が特徴的所見とされます。
多くの症例では、膣分泌物の鏡検にて活発に運動するトリコモナスを確認できますが、まれに剥離細胞などの陰で見落とすことがあり、そういった場合、膣トリコモナス培地による培養が有用です。
トリコモナス症の治療
本疾患の場合、治療の原則として、患者本人を配偶者、パートナーとともに同時期、同期間、治療します。
治療には男女共に、メトロニダゾール(1日500mg10日間)やチニダゾール(1日400mg7日間)の経口投与を行いますが、女性の難治例に対しては、上記薬剤の膣錠を併用することがあります。