近頃の女性の患者さんの訴えの中で一番多いものに、

「最近、おりものが多くなってきて、かゆい。」

というのがありますが、
細菌培養や顕微鏡検査にて原因を突き詰めていくと、
(もちろん、おりものの見た目も大事ですが。。。)
おりものから、カンジダという真菌(カビ)が検出されることが
あります。

たとえ、膣の分泌物培養から、カンジダ属の真菌が
出てきたからといっても、すぐにその患者さんの疾患が
性器カンジダ症であるとは限りません。

今僕は「性器カンジダ症」という言葉を使いましたが、
この呼び方は、日本性感染症学会での正式な名称です。
一般には、カンジダ膣炎、カンジダ膣症といったり、
外陰膣カンジダ症という場合もあります。

もともと、人類の身体は、常にカビと接しています。
カビと暮らしていると言ってもいいくらいです。
その一番いい例が、ビニール袋に入っているパンなどの食品に
数日でカビが生えてくるという事実です。
これは、いつでも、だれもが経験してますよね。

また、足の趾の間に発生する足白癬、いわゆる「水虫」ですが、
これも白癬菌というカビの仕業であることは、
誰もが知っている事実です。
また、「インキンたむし」と言われている股部白癬も、
白癬菌の種類から考えれば、足白癬の仲間と言っていいでしょう。

同じ白癬菌が起こす疾患として、体部白癬という疾患があります。
これは、年配の方からは、「ゼニたむし」などと呼ばれていて、
ゼニ(銭:コイン)の形をした皮疹が、身体の躯幹や四肢にできる
ことからそんな名前がついたとされています。
「しらくも」も頭皮にできた白癬ですので、正式には、
「頭部白癬」といい、体部白癬のバリエーションの1つといえます。

ここで、皆さんは少し疑問に思うかも知れません。

「身体や足には、白癬菌(幾つかの糸状菌をまとめてこう呼んでます。)
なのに、なぜ、陰部に関しては、白癬菌ではなくて、カンジダなの?」

確かにそうなんです。

これは、僕たち医者の側からみても非常に不思議な事実なんです。
でも、どうしてそうなるのか?を知る手がかりはあります。
カンジダのバリエーションを見てみればいいんです。

で、どんなのがあるのかっていうと、

まず、健康な人のカンジダは、
①口腔内カンジダ症→小児に多い・鵞口瘡と言う
②外陰膣(性器)カンジダ症→おなじみの女性を悩ますヤツです
この2つで、

あとは、糖尿病や免疫不全の患者さんに多発する、
③皮膚カンジダ症
④爪カンジダ症
⑤肺カンジダ症
の3つです。

おわかりになりましたでしょうか?
そうです。健康な人間の免疫下においては、
カンジダ属の真菌は、口腔や膣・外陰などの粘膜部
(不全角化上皮)を好んで棲息するのです。
しかも、健康な人間といっても、小児であれば、生ワクチンを接種
した後や、水痘にかかった後であるとか、
成人女性であれば、カゼなどにかかって、細胞性免疫を
使い果たして(ちょっと大げさですが。)しまったところで、
カンジダが発症するのです。

さらに、成人女性に関して言えば、
抗生剤などを投薬された時に、膣内の乳酸菌類が死滅してしまって
カンジダの増殖が抑えきれなくなったり、
性行為などによって、一般細菌が混入し、
膣の清浄度が失われた時に、一般細菌と共にカンジダが増殖し、
発症する、といったパターンも多いようです。

どうですか?ここまで読んでいただいた皆さんには、
性器カンジダ症の性病的要素は、かなり少なめ、それどころか、
ほとんどない、という事がわかっていただけたかと思います。
(性病的要素は5%くらいといわれています。)

そして、話は一番始めに戻りますが、
性器カンジダ症の診断は、単にカンジダがいるというだけではなく、
痒みや、独特のおりものの増加、外陰・膣などの特徴ある炎症など、
定型的な症状や所見をもって判断されるべきです。

現時点で、患者さんが抱えている症状が、
一体、何によるものなのか?

医者でさえ、
「カンジダですね。」という一言で、済ますことができない場合も
あるということを覚えておいてください。

次回もカンジダでいきますよ。

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