ここ数ヶ月、おりものの状態が良くないという主訴でCさんは当院を訪れた。
聞けば、2週間前にも同じことで他院を受診してカンジダ膣炎の治療をしてきたという。

治療したての頃は治った気がしていたのだが、時間がたつにつれ、
おりものの量が増え、臭いがするようになり、
膣口の周りの軽い痛みと痒みも出てきたというのだ。
ただし、それらの症状はものすごくひどいというわけでなく、
「なんとなく変」という感じらしい。

早速診察してみると、一見してカンジダではなさそうだった。
おりものの色は薄く、全体的にサラッとしているが、
嫌気性菌がいるのであろう。
ところどころに泡だった部分が認められ、嫌気性菌独特の臭いがする。
また、膣壁の発赤や、膣口・外陰の炎症は認められなかった。
典型的な細菌性膣症(BV)のパターンである。

とりあえず、分泌物の検査結果を見てみることとして、
膣洗浄と外陰処置を行い、数日後の再来とした。

再診時、分泌物培養の結果は、
初診時の所見に全く矛盾しないものが得られていた。
好気性菌のGardnerella vaginalis
嫌気性のPrevotella sp.
同じく嫌気性のPeptostreptococcus sp.
以上の3菌種であった。

これらの菌はとりたてて、病原性が強いわけではない。
また、膣内にいてはいけない という菌でもない。

要はバランスなのだ。
仮に、良い菌(乳酸菌):良くない菌(今回の3つの菌種など)の
正常な時の量的な比を、95:5とすると、
今回の状態はそれが、30:70になったようなものなのだ。

さらに、我々が行っている医学という学問は
この菌の比を0:0にするのは得意でも、もとの95:5に戻すことが、
大の苦手である。ここに治療上の問題が生じるのである。

患者さんによっては、完治といえるまで長い長い道程を要することがある。
Cさんにこういったことを伝え、「まずは膣内の菌を全部やっつけますよ。」と言った。

目標は95:5。今回はいったいどんな旅になるのだろう?

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