性器ヘルペスの無症候性ウイルス排泄(2)

ウイルスの無症候性排泄というテーマは、
最近、日常の診療においても、よく扱うようになりました。

まさに、現代の感染症が「ウイルスの時代」
突入してきたことを物語っています。

今回は、前回と同じタイトルの後半です。

症例
25歳のCSW(コマーシャル・セックス・ワーカー)の女性。
3年間ほど現在の職業において、不特定多数の客と
性交、オーラルセックスを行っている。
1年程前より、口内炎と陰部の潰瘍が出現するようになり、
近くの産婦人科を受診し、性器ヘルペスと診断を受ける。
症状が出るたびに治療を行うのだが、1ヶ月に2度のペースで
再発を繰り返すため、大学病院を受診することになった。

再発抑制治療とウイルス排泄
大学では以下の治療・観察を行いました。

ゾビラックス1錠/日(これを低用量再発抑制療法と言います)
を続けたが再発を繰り返す
   ↓
1ヶ月内服を中止した後、29日間連続で陰部からの
ウイルス(HSV-1)排泄をみた
   ↓
29日間中6日間の排泄であった
   ↓
次に、バルトレックス1錠/日に切り替え、1年それを続けた後
1ヶ月内服をやめてから、上と同様の検査を行った
ただし、この時は口腔内のウイルス(HSV-1・2)排泄も調査した
   ↓
陰部では29日間中2日間のウイルス排泄が認められた
(6日→2日なので抑制効果あり?)
   ↓
口腔内では、HSV-1が29日間中1日
HSV-2が29日間中2日間排泄されていた


実際の日付を使って表すと以下のようになります(5/7~6/4)
5/9   陰部1型 口腔2型  陰部に腫れぼったさあり
5/15  陰部1型         陰部に張れぼったさ・違和感あり
5/27         口腔2型  口内炎 
6/2          口腔1型  口内炎

これを見てわかるように、この女性は陰部には1型のヘルペスを
口腔には1型と2型のヘルペスを持っています。

さらに、バルトレックスで再発抑制療法を行った後でも、
29日中4日間は、体のどこかからはウイルスを排泄している
ことがわかります。また、この4日間は、陰部または口腔に
何らかの症状がありましたが、特に注目していただきたいのが、
5月9日の口腔の2型の出現です。この時、陰部の症状は
ありますが、口腔の症状がないのに、口腔内から2型が検出
されています。これぞまさに本当の意味での無症候性ウイルス排泄
であるといえます。

ウイルス排泄の予防
性器ヘルペスの治療法には、
1.再発する度に薬を飲む。
2.再発しそうになったら、あらかじめ渡してある薬を飲んでもらう。
3.低用量の薬をつづけて再発させないようにする。

以上の3つがありますが、3はまだ保健が適応されません。
ただ、今回の症例でも明らかだったように、3の治療法は、
ウイルスの無症候性排泄を減らす唯一の方法であると言えます。
1日も早い保健適応の認可が待たれます。

性器ヘルペスの無症候性排泄は、一般的知見として、
初感染後3ヶ月以内に最も高率に起こり、以後、時間経過とともに
減少するとされてきました。
また、頻回(12回以上)に再発を繰り返す症例では、再発のない
症例より、ウイルスの排泄量は多く、
排泄時期は、再発の前後1週間に集中するとも言われてきました。

ただ、今回の1女性の症例から、この知見を考察すると、果たして、
これは正しいものなのか?という疑問が浮かび上がってきます。
そうです。性感染症のウイルスという分野において、ようやく
人類は、現在人体で何が起こっているか、ということが
わかり始めてきたばかりなのです。

その中で、この性器ヘルペスの無症候性ウイルス排泄という
現象は、最も身近でかつ頻度の高い問題であると言えます。
人類がさらに多くのことを知り得るまで、ウイルスを含む
多くの疾患を、コンドームによって確実に防いでください。

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